大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和57年(行コ)228号 判決

控訴人(原告) 野村圭佑 外四名

被控訴人(被告) 國井郡彌 外五名

補助参加人 荒川区

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用及び参加によつて生じた訴訟費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら訴訟代理人は、「原判決中被控訴人らに関する部分を取り消す。当審補助参加人荒川区に対し、被控訴人國井郡彌、同片見秀夫、同鈴木厚之進及び同斎藤正は各自金九五五五万八七四五円及びこれに対する昭和五三年六月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被控訴人コロナ工業株式会社は金三七六万〇六八〇円及びこれに対する昭和五三年六月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、被控訴人山口裕は金四三万九三二〇円及びこれに対する昭和五三年六月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら訴訟代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方及び当審補助参加人の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、次に付加するほか、原判決事実摘示(ただし、原判決八枚目表六行目「國井らは」の次に「各自」を加える。)と同一であるから、これを引用する。

(控訴人ら訴訟代理人の陳述)

一  監査請求の期間について

仮に本件監査請求について一部期間徒過の廉があるとしても、本件監査請求に先立ち、控訴人らにおいて当審補助参加人荒川区に対し、本件売買契約の内容を知るべく、契約書及び安田信託作成の鑑定書の閲覧を求めたところ、区は右各書類の閲覧はもとより、その内容すら明らかにすることを拒否した。したがつて、右期間徒過の点については、地方自治法二四二条二項ただし書にいう「正当な理由」がある。

二  契約締結及び公金支出の違法について

昭和五一年九月三日に売買代金の九七パーセント相当額を被控訴人コロナらに支払つたことは、所有権移転登記時に売買代金額の三分の二(約六七パーセント)を、引渡時に三分の一を支払うという通例の場合に比し、被控訴人コロナらに著るしく有利な支払方法であり、被控訴人國井らに裁量の範囲を逸脱した違法があることは明らかである。しかして、右支払は区において年八・六パーセントの金利を負担する資金をもつてなされたものであるから、前記支払代金のうち、通例の場合をこえる部分に相当する金額に対する支払日から引渡時期(昭和五二年三月三一日)までの間の金利相当額は、被控訴人國井らが通例の支払方法をとつておれば、支払の必要がなかつたものであるから、少なくとも右金額について区が損害を蒙つたことは明らかである。

三  不当利得について

本件売買契約によれば、本件土地の所有権は契約締結と同時に区に移転する。そうとすれば、本件土地の使用は区の普通財産管理に関する規則等により、有償貸付が原則となるところ、被控訴人コロナらは、かかる手続を経ることなく、引渡時期まで本件土地を利用していたのであるから、少なくとも右期間内の貸付料相当額の支払を免れた限度において利得をえている。

(被控訴人ら訴訟代理人及び被控訴人鈴木厚之進の陳述)

控訴人らの右一から三までの主張事実はすべて争う。

理由

当裁判所も、控訴人らの被控訴人國井らに対する昭和五一年九月三日の公金支出に関する損害賠償請求に係る訴えは不適法であるから、これを却下し、控訴人らの同被控訴人らに対するその余の請求及び被控訴人コロナらに対する請求は理由がないから、いずれもこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由説示(ただし、原判決四八枚目裏七行目「二四・五メートル」を「二四・五五メートル」と五〇枚目裏一一行目「一八号証」を「第一八号証」と各訂正する。)と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人らの前示一の主張について

成立に争いのない甲第三号証、原本の存在及び成立につき争いのない甲第二五ないし第二七号証によれば、本件土地のうち被控訴人山口所有分については昭和五一年八月二〇日に、同コロナ所有分については同年九月二日に、本件売買契約にもとづいて荒川区のために所有権移転登記が経由され、右登記によつて荒川区の所有権取得が公示されているところであり、また、本件売買契約及びこれにもとづく本件土地の所有権取得について、同年八月三〇日、一〇月四日及び一〇月五日に開かれた荒川区総務委員会において質疑及び説明等が重ねられたことが認められるから、仮に控訴人ら主張の閲覧等の拒否があつたとしても、これをもつて地方自治法二四二条二項ただし書にいう「正当な理由があるとき」に該るとすることはできない。控訴人らの右主張は理由がない。

二  控訴人らの右二の主張について

昭和五一年九月三日の公金支出に関する損害賠償請求に係る訴えを不適法として却下すべきものであることは前判示のとおりであるから、さらに控訴人らの右主張について判断の要をみない。

三  控訴人らの右三の主張について

被控訴人コロナらが本件土地の引渡期日である昭和五二年三月三一日まで本件土地を駐車場として使用していたことは当事者間に争いがない。

しかし、被控訴人コロナらによる本件土地の右使用収益の対価として、駐車場使用料二四〇万円及び倉庫使用料一〇万円合計二五〇万円(被控訴人コロナにつき二二三万八四八一円、同山口につき二六万一五一九円)を荒川区に帰属させて、右二五〇万円相当額を本件土地の代金額から差し引いていることは引用に係る原判決の理由説示のとおりであり、さらに被控訴人コロナが本件土地を右のとおり使用収益することにより右金額を超える利得をしたことを認めるに足る証拠はないから控訴人らの右主張もまた採用することができない。

よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中川幹郎 梅田晴亮 上野精)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例